ハチマルの生い立ち THE LAND CRUISER STORY 〜 Chapter3[設計の章] 〜

 

ハチマルを世に送り出した開発者たちの熱い想い

この物語はアラコ株式会社の実際のホームページに掲載されたものです。
7、8年前にアラコ殿に掲載許可を取りましたが実名が記載されていること、部署名が現在と変わっていることを理由に残念ながら却下されました。
しかし、ハチマルをこよなく愛する者として、ハチマル誕生秘話はぜひ80オーナーに知って頂きたい、という思いで掲載する事に致しました。


 

| 0.プロローグ | 1.製品企画の章 | 2.デザインの章] | 3.設計の章 | 4.試作の章 | 5.実験の章 | 6.生産技術の章 |

 

〜 Chapter3[設計の章] 〜


クラウンを超えろ
静けさのテクノロジー

 
CSという言葉がある。Customer Satisfaction の略で、顧客満足度と呼ばれるものだが、車両品質保証部がよく使う。「CSのためにもこの設計を変えてほしい」という風に。
顧客=ユーザーがどんな車を求めているのかを常に探り出し、CSの高い車造りのためにあらゆる部門、すなわち製品企画から生産技術、製造にまで働きかけるのが車両品質保証部の役割だからである。スタッフ自らが

「検察官のようなもの」

と言うほど、その目は厳しい。そのため彼らは日夜、国内市場はもとより、世界中の市場からの顧客情報を収集し、分析にあたっている。

さて、設計の話を車両品質保証部から始めたのには理由がある。彼らが市場、特に欧米や日本から集めた情報の中に、一つ大きな傾向がみられたからである。曰く

「車の振動や騒音が大きい。もっと静かな車がほしい」

むろん製品企画の段階からそうした要望は織り込まれていた。高級4WD車に静粛性は不可欠な性能であり、車両設計部の部長であった原田 稔にしても、それを設計の最大のテーマと考えていた。

「とにかく、世界で一番静かなオフロードカーを造ろうじゃないか」

そう言って、原田自身が設計部の面々にゲキを飛ばしていた。
そうした、静粛性を実現するためには、デザインが終わった時点で設計に着手していたのでは間に合わない。独自のノウハウが必要とされるのだ。はるかに以前から車両実験課との協力による車両設計部の「静かな車づくり」が始まっていた理由がここにある。

まず、ランクル60の徹底した評価により振動・騒音の解析を行った。
一般にボディに関する振動・騒音には「ボディシェイク」「エンジン」「風切り音」などがあるのだが、とくにボディシェイク(2節曲げ共振振動)は車両の骨格構造に大きく影響されるため、設計構造に入る以前から対策を立てておかないといけない。時速百数十キロで走っていると、ハンドルが振動し始め、騒音が大きくなる経験をされたことがあるだろう。これがボディシェイクである。その原因を解析し、起こりにくい骨格構造にしていく必要があるわけだ。

 

 

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オフロードのクラウンへ

「ボディシェイクをなくせ」
これがまず、原田部長から発せられた号令である。それに呼応して、車両実験課から、

「ボディの共振点を二十五Hz(ヘルツ)以上にしてほしい」

との要望が寄せられたのは、かなり初期の段階である。それくらいの振動数になるような骨格にしてほしい・・・・・・ということである。 持ち込まれた側の宮村憲一と松山徹は早速、骨格構造の決定に入った。

「フロントタイヤとリヤタイヤから発生する入力でボディが曲げられるわけだから、バネ下部品とボディの共振点を遠ざければいいわけだな」
「それで実験の方は二十五Hz(ヘルツ)以上という数字を出してきたのか」
「結局、ボディの剛性を上げるしかないな」

このボディの剛性を上げていくには、さまざまなノウハウがあるのだが、彼らがまずトライしたのは、リンホースをしかるべき位置に組み込んで「崩れ」を防ぐ方法であった。コンピューターを使っての解析が続いた。
しかし、ボディシェイクだけが騒音や振動の原因になるわけではない。一つに、エンジンからの透過音がある。

「ダッシュパネルを厚くするか?」
「いや、厚くすればその分重くなってしまうから、別の方法にしたいな。」
「だったら、あれを使おう。」
「あれって?」
「高級乗用車に使われている二重構造ダッシュパネルさ。あれを応用できないかな。」
「やってみる価値はありそうだな。」

こういう例は決して珍しいことではない。乗用車用に開発された技術を応用して、ランクルに採用していく、という作業である。が、しかし、だからといって

「なら、そう苦労はないじゃないか」

などと思うのはやめてもらいたい。宮村は言う。

「ランクルは、クラウンなどの高級乗用車とは違う、オフロードカーなんだ。山道や荒れ地を走ることが多い。反面、セルシオやクラウンはきれいに舗装された道を走る。はるかに条件が悪いんだ。それでいて、同じような振動や騒音のレベルにしようっていうんだから・・・・・・」

二重構造のダッシュパネルも同様である。

「クラウン並みの静粛性を持たせるんなら、もっと構造の工夫をしないとな」
もう一つ、風切り音を少なくするために行われたドアフレームの剛性を高める工夫も先行開発され、断面係数では世界で一番大きいという技術を確立していた。これもまた、原田が強調していた「クラウン等の、乗用車でも最高級車並みの、いや、あるいはそれを超える静けさを持った車にしようじゃないか」という思いが与えた課題だった。  

「二重構造だけじゃ不十分かもしれない」
「よし、アスファルトシートを貼ろう」
「それも、従来のアスファルトシートじゃ駄目だろうね」
「新しい素材を探さないとな」

彼らの開発のための議論のキャッチボールはいつまでも続いていた。

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風邪をひくベドウィン

先行開発されていたのは、エアコンも同じだった。市場調査の結果から「強力高性能なエアコンを開発してほしい」というユーザーからの要望が出されていたのである。

某日、設計室山本耕嗣が原田に呼び出される。

「エアコンの開発をやってくれ。但し、ありきたりのエアコンじゃ駄目だ」
「と言うと?」
「中近東のベドウィン族が風邪をひく位よく冷えて、北海道の真冬にシャツ1枚で乗れる
くらい暖かくなるエアコンだ。」
「早い話、世界一のエアコンですね」
「そうだ、そのためなら金をいくら使っても、いくら大きくなってもかまわん。」

一瞬、山本は耳を疑った。これまで長い間いろんな設計をやってきたが、「金はいくら使ってもいい」というのは初耳である。いや、山本に限らず、全ての技術者にとっても同じだろう。山本が大はりきりで設計に入ったのは当然だった。パートナーはエアコンの製造を担当する協力メーカーの技術者である。山本の第一声は、

「おたくでつくれる最大レベルのエアコンを設計したい」

こうしてでき上がった先行試作品は、毎時7000キロカロリーという冷房能力を発揮するに至った。ランクル60の時が3500、セルシオでさえ5400 だったから、その能力の大きさがわかろう。これは、外気温摂氏四五度の砂漠でエアコンをつけた時、五分で寒くなる性能だ。

「おそらく、現時点で世界最大の能力を持つエアコンでしょう。」

協力メーカーの技術者がそう太鼓判を押した。
が、山本にはこれをボディにフィットさせる作業が残っていた。世界最大だけに、サイズもそれなりに大きい。これをいかにコンパクトにしていくか。

原田が声をかける。

「組み付けた時、冷房能力が若干落ちるのは仕方ないだろう。でも、最小限にしろよ」

山本が答える。

「わかってます。試作車での世界一の座を、量産車でも守ってみせますよ」

同じく中近東からの「声」だったのが、「ベンツと比べてランクルの冷房能力は劣るんじゃないか」と言われた背景があり、これをなんとかしたいというのが久永や原田たちの気持ちだった。それが山本への叱咤激励となって表われたのである。

「コンパクト化していくと、やはりどうしても能力は落ちてしまう。しかし、6000キロカロリーに近い線だけは守りたい」

そうした山本の気迫が通じたのか結果は約5600キロカロリーの能力を確保したのだった。堂々の"世界記録"であった。

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召集令状、来たる

 

車両設計は、フロントボディ、サイドメンバー、バックボディ、アンダーボディ、ドアの各グループが担当し、順調に進んでいた。構造計画に従い、技術者達が「ポンチ絵」と呼ぶ構造計画図が描かれ、原図へと続く。設計作業はCADを使うことがほとんどとは言え、孤独な作業であることに変わりはない。所詮、 CADは道具でしかないからである。そして、時間との闘い。

開発の流れの中で、絶対的なものがあるとすれば、それはラインオフ、すなわち生産開始の時である。その日に向けて、車両試作課や車両生産技術部が精力的に準備を進めているわけで、両部門からの催促は厳しい。「ピタッと横に立って待ち、図面ができあがるとすぐに持っていってしまう」というようなシーンが、せっぱ詰まってくると頻繁に見られる。とりわけ車両試作課は設計図から試作車を造らなければならない立場上、要求はきつい。設計図そのもののチェックも入念をきわめる。設計し終えても安心はできない。ほっとする間もなく、試作課から分厚い書類が回ってくる。

「おい、召集令状が来たぞ」

ベテランの技術者がそう叫ぶと、どこからともなくため息がもれる。この召集令状「問題点連絡書」、略して「問連書」と呼ばれるものである。

「ボルトの位置がわからない」
「これではスポット溶接ができない」
「部品のサイズがあわない」

などと指摘されるのである。その一つ一つに対応をし、必要とあれば設計に変更を加えなければならないのだ。

「問連書が来ると、針のムシロ、の気分」

そういう声があるほど、ありとあらゆる点での不備を指摘されるわけである。しかし、これは一度は通らねばならない道である。
こうして決められた設計は、部品ごとの設計図である「手配図」となり最終的にはバリエーションを含めた「正式図」へと展開されていく。
この段階を迎えると、定時を過ぎると課やグループの人間がごっそり消える日がポツリポツリと出てくる。ご想像通り、設計作業が一段落したのを祝っての「打ち上げ」である。
その翌日はもちろん、「二日酔いで全員討ち死」ということに相成る。

 

Chapter4[試作の章]へつづく]

 

〜 THE LAND CRUISER STORY 〜
PROLOGUE :プロローグ
Chapter1[製品企画の章] :プレステージカーを目指せ
Chapter2[デザインの章] :タキシードで乗れるか 
Chapter3[設計の章] :クラウンを超えろ
Chapter4[試作の章] :嵐の日々
Chapter5[実験の章] :闇の中の疾走
Chapter6[生産技術の章] :人にどこまでやさしいか

 

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