ハチマルの生い立ち THE LAND CRUISER STORY 〜 Chapter4[試作の章] 〜

 

ハチマルを世に送り出した開発者たちの熱い想い

この物語はアラコ株式会社の実際のホームページに掲載されたものです。
7、8年前にアラコ殿に掲載許可を取りましたが実名が記載されていること、部署名が現在と変わっていることを理由に残念ながら却下されました。
しかし、ハチマルをこよなく愛する者として、ハチマル誕生秘話はぜひ80オーナーに知って頂きたい、という思いで掲載する事に致しました。


 

| 0.プロローグ | 1.製品企画の章 | 2.デザインの章] | 3.設計の章 | 4.試作の章 | 5.実験の章 | 6.生産技術の章 |

 

〜 Chapter4[試作の章] 〜


嵐の日々
5,000点の嵐

「試作の人間ほど、耐える能力が求められる部門はないんじゃないか」

車両試作課の仲井克己は時々そう思うことがある。早い話、設計が完了しなければ何もできないのである。それまでは耐えるしかない。できるのは、「早くやれ」と催促することぐらいだろうか。その代わり、設計図が出た時には、やるべきことが山ほど生まれる。まず、試作のための企画である。部品を造るための型の検討から組付け治具の設計・製造、さらに部品製作区分もやらなければならない。部品を内製するか、外部に発注するかによっても仕事の進め方が大きく変わってくるためだ。

アラコの場合、原則として型はトヨタ自動車へ依頼するのだが、その発注作業も試作課の責任において行われる。型が完成するとその型を使って部品加工を行い、ボディ組付けを経て、ようやく試作車両が完成するのである。試作車製造はこれ以後も何回か繰り返し行われ、問題点は回を重ねるごとに減少していくことになる。

この頃になると、ラインオフの日が迫ってきており、スケジュール管理はとみに厳しさを増してくる。しかも部品点数は5000点近くにもなる。車両管理係として、そうした調達を担当する上松瀬和文にしてみれば、まさに嵐の日々である。

「一口に数千点にも及ぶ部品の調達と言っても、じゃ、調達した部品をどうするのかという問題がある。試作部品用の倉庫があるわけじゃないから、どこかへ運び込まないといけない。そうした物流の手配も仕事の一つ」

ここで言う『調達』とは、日程管理と物流の仕事を含む総合的なものなのだ。

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義理と人情

「そんなスケジュールじゃ、絶対できませんよ」

打合せは順調に進んでいたのだが、スケジュール調整の話に移った途端、協力メーカーの担当者が口にした言葉てある。

「もちろん、わかってます。」

事実、上松瀬にもよくわかっていた。彼の仕事の一つに、試作部品を製造してもらう協力メーカーの確保がある。そのほとんどは、これまでにつきあいのあるメーカーで、全てを新しく探さなければいけないわけではない。が、探さないといけない時もあって、新しい素材を使う時などがそうである。

とある協力メーカーとの打合せの席であった。

「もちろん、かなり無理なスケジュールだということはわかってるんです。でも、やっていただかないと・・・・・・」

「そりゃ仲井さんや上松瀬さんとは長いお付き合いだし、ご期待に沿いたいとは思いますが、如何せんあまりに厳しい」

こうなると、もう理屈の問題でないことはおわかりと思う。無理を承知で頼み込まねばならない時があるのだ。

「わかりました。なんとか努力してみます。でも、できるという保証はどこにもありませんから、そのことだけは了承しておいてくださいよ。」

その問題の試作部品の納品予定日の2〜3日前から、仲井と上松瀬の姿が社内から消えていた。一升瓶を下げて、くだんの協力メーカーに出かけていた。いわゆる「夜討ち朝駆け」である。

「まあ、ひとつ、よろしく」

担当者だけでなく、わざわざ課長までが足を運んでくる・・・・・・協力メーカーにしてみれば悪い気はしないだろう。こうして一つの部品がしかるべき日に、しかるべきところに納入されることになる。

「『義理と人情』の世界でもある。部品が一点足りなくても試作車は完成しない。なんとか決められた日までに試作車をつくりたい。そのためにできることをやり尽くそう・・・・・・そういう気持ちが全ての出発点になっている」

そう上松瀬は語った。

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エンジンルームの美学

試作課の中には、少々毛色の違った仕事をしている技術者がいる。技術員の市丸善紹である。試作課にいながら評価の仕事、すなわち、組付け性や配線・配管の評価、FH(Fire Hazard)と呼ばれる車両火災や雨漏り、生産性などの評価を行うのである。

つまり、車両実験課が 『動的』 な性能の評価をするとすれば、市丸は『静的』な評価を行うのである。

さて、その市丸が製品企画段階から主張していたのが、「カットボディによる評価をやらせてほしい」ということだった。エンジンルームのあるフロントボディ部分のみ試作して評価したい、というのである。

そのカットボディを前にして、市丸と設計の担当者が話し込んでいる。

「この部分の配管だけど、もっと直線的にレイアウトできないかな」
「機能的に何か問題があるのか?」
「いや、そうじやなくて、見映えがよくないんだ」
「見映え?」

市丸の言う通り、最近ではエンジンルームの『見映え』がクローズアップされるようになっていたのである。「エンジンルーム内のデザインもセールスポイントにしたい」という意向があり、それを市丸がチェックしていたのだ。

「しかし、直線的にすると、全体に長くなってコストがかかってくるぜ」
「ある程度は仕方ないと思う。とにかく見映えをよくするために、直線的なイメージで設計し直してくれないか」

この会話から、市丸なりの『哲学』がなんとなく伝わってこないだろうか。

「ただ、効率的に配線・配管をしていくのでは見映えはよくならない。だから、私なりの考えで設計してもらった。基本的には直線を基調とし、直角に、シャープに配線・配管をする。曲線が基調の外観デザインとは反対だけど、美しくて高性能をイメージさせるにはその方がいいと思って」
市丸は、『美学の人』でもあった。

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決断の時

いよいよ、第一次の試作車が姿を現わし始めた。
デザイナー苦心のデザインが車両設計部や車両試作課の手を経て、現実のものとなりつつあった。完成すれば、役員を含めた評価委員のチェックを受け、二次、三次……の試作へと進むはずだった。

ところが、ここで大ドンデン返しを食うのである。全体のデザインそのものの変更が求められたのである。

「ワークホースとしてのランクルではなく、高級RVとしてのランクルをめざしたと言うが、そうしたデザインになっているのか」 という理由からだった。

実は、久永にしても、宮川にしても、原田にしても、途中でうすうす感じてはいたことだった。久永によれば、

「RVとしてのランクルを目指すと言いながら、やはり中近東のユーザーとかマニアとかの存在が頭の片隅にあって、完全にRV志向に徹底できていなかった。」

ということになる。

宮川にしても、「RVとしてのランクルというイメージが未消化だった」という気持ちだった。
デザインでその予兆があったように、やはりまだ従来のトラックのイメージに引きずられていたのだ。久永、宮川、原田たちを中心に、何時間も話し合いが続く。

「ラインオフの日が近づいている。時間がない」
「しかし、やはりこのままのデザインでは駄目だ。やり直すしかないだろう」
「製造部はもちろん、生産技術も準備に入っているんだぞ。必要最低限の直しでなんとかならないか」
「いや、駄目だ。ランクルにはここ何十年かにわたって築き上げてきたブランドイメージがある。これを台無しにするわけにはいかない。中途半端では駄目だ」
「そうなると、全てのスケジュールが狂うな。全部門から恨みを買うことになるぞ」
「覚悟の上だ。こうなりゃランクルのために全ての罵詈雑言を受けようじゃないか」

こうして決断はなされた。

具体的には、
「中近東やオーストラリアのユーザー、それにマニアの人たちには4WD車としての走行性やパワーといった基本性能の面で納得してもらおう。それだけの自信はある。で、外観デザインは徹底してRV志向にする」

ということであった。
 
デザイナーの北野や鈴木たちは、吉元と共にモデルの手直しに着手した。
「やっぱりフロント部分を重点的に直そう」
「結局は全部直すことになるぜ」
「だったら、全部やるだけだ」

フロントに重厚感を出し、その結果、さらに大らかでボリューム感のあるデザインとなった。 だが、デザイナーたちにとってこうした日々は、居たたまれない毎日だったに違いない。 

「『俺たちがこんなに苦労をするのもデザインのせいだ』というんで、他の部門のスタッフの目の冷たかったこと」

それはともかく、「一次試作と二次試作の間で、これほどガラリとデザインが変わった車はなかった」と言われるくらい、二次試作車は新しいイメージに生まれ変わったのだった。

嵐はあらゆる部門に

デザイン全面変更。このニュースは瞬く間にあらゆる部門に伝わり、社内は騒然となった。

「冗談じゃない。時間がなさすぎる。」
「もう一度、全く新しい車を開発するのと同じじゃないか。」

予想した通りの反応だった。しかし久永や宮川、原田達は根気よく説得して回った。

「全ては、優れたランクルを造るため、売れるランクルを造るためだ」と。
「時間がないことも、極めて無理のあることもわかっている。だからといって、中途半端な車でいいのか。どうせ造るのなら、他社をも唸らせるような車にしたいんじゃないのか」とも。

考えようによっては、技術者の一番の弱点をつく言葉である。

「どうせやるなら、徹底してやろうじやないか。『あん時はすごかった』と語り種になる様な仕事にしようぜ」

厳しい毎日が始まった。
車両設計部では全ての部分での設計の変更に着手した。
バックドアとスペアタイヤキャリアの設計を担当していた湯浅進也はすぐさまベテラン技術者に集合をかけた。

「バックドアのボディ線図を超特急でやらないといけない。与えられた時間は2週間だ。」

技術者たちがざわめく。普通なら3カ月はかけてやるものである。しかし、

「ようし。ボディ線図の新記録をつくろうじやないの。」

そんな雰囲気になるのに、そう時間はかからなかった。だが、彼らに連日の『午前様』が続いたのは言うまでもない。

試作課にも嵐は吹き荒れていた。一次試作で造った型は当然、使えない。型も全面的に発注し直さなければならない。

「そんな無駄なことができるか」

そう言う関係者を説得する日々が続いた。
生産技術部にしても例外ではない。生産準備のスケジュールが大幅な変更を余儀なくされたのだ。

製造部のスタッフがくってかかる。
「ラインオフに間に合うのか」
「間に合わせるとも、絶対に。少なくとも、『あの時にもう少し頑張れば、もっといい車になったのに・・・・・・』という悔いは残したくないからな」

そして、ある技術者曰く、「ハードの上に超がつく」という日々を経て、デザイン・設計が変更され、二次試作車は誕生した。

評価委員会の決定を待つ。

「よし、これでいこう。」

こうしてデザインは最終決定した。
途中でのデザイン変更というのは初めてのことだった。原則は所詮、原則でしかないことを思い知らされた経験だった。しかし、やろうと思えばできないことはない、という不変の真理を垣間見た出来事でもあった。

ランクルの開発は、さらに新しい段階へと入った。

 

 

Chapter5[実験の章]へつづく]

 

〜 THE LAND CRUISER STORY 〜
PROLOGUE :プロローグ
Chapter1[製品企画の章] :プレステージカーを目指せ
Chapter2[デザインの章] :タキシードで乗れるか 
Chapter3[設計の章] :クラウンを超えろ
Chapter4[試作の章] :嵐の日々
Chapter5[実験の章] :闇の中の疾走
Chapter6[生産技術の章] :人にどこまでやさしいか

 

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