ハチマルの生い立ち THE LAND CRUISER STORY 〜 Chapter5[実験の章] 〜

 

ハチマルを世に送り出した開発者たちの熱い想い

この物語はアラコ株式会社の実際のホームページに掲載されたものです。
7、8年前にアラコ殿に掲載許可を取りましたが実名が記載されていること、部署名が現在と変わっていることを理由に残念ながら却下されました。
しかし、ハチマルをこよなく愛する者として、ハチマル誕生秘話はぜひ80オーナーに知って頂きたい、という思いで掲載する事に致しました。


 

| 0.プロローグ | 1.製品企画の章 | 2.デザインの章] | 3.設計の章 | 4.試作の章 | 5.実験の章 | 6.生産技術の章 |

 

〜 Chapter5[実験の章] 〜


闇の中の疾走
攻撃する車両実験課

「今回のランクルの開発から『攻撃する車両実験課』というキャッチフレーズでいく」

そう口火を切ったのは、課長の 湯川恒夫 であった。

「攻撃する実験?」

課のスタッフがけげんな面持ちになったのを見て、湯川が続ける。

「要するにだ、実験というと、出来上がった車を実験にかけ、その結果をフィードバックするというのが一般のイメージだけど、そうじゃないってことをアピールしたいわけだ」
「で、具体的にどこを攻撃するんですか?」
「製品企画室やデザイン、設計など全てだ」

確かに車両実験課という呼称から、率直なところ、やや受け身的なイメージを受け取りがちである。しかし、現実にはそうでないこと、にもかかわらず、その現実があまり知られていないこと・・・こうしたことが湯川達の『攻撃する車両実験課』というキャッチフレーズの背景にあった。

彼らの攻撃準備は、車両品質保証部との連携のもと、従来型(ランクル60)の徹底した解析と市場調査から始まった。とくに開発コンセプトとの関連で、静粛性に優れた車づくりには積極的に関わっていった。

[設計の章]で紹介したように、ボディシェイクを計算によって解析し、求められる周波数を車両設計部に提案したのである。騒音や振動の解析は、車両実験課の最も得意とするところだったからだ。

騒音・振動だけではない。その他、安全性や車両性能、材料にいたるさまざまな点について、製品企画段階で車両実験課なりの要望を出していたのである。それは、「車はこうでなければならない」という車両実験課ならではの理念の表明でもあった。 湯川は言う。
「ランクルもかつては壊れない車であればよかった。しかし今は違う。静かな車、さらには人に優しい車でないといけない。」

そのための車両実験課からの『攻撃』だったのである。

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東富士研究所にて

闇の中を何かが走っていた。軽快なエンジン音を響かせてテストコースを走る黒い影。場所はトヨタ自動車の東富士研究所のテストコース。黒い影は、言うまでもなくランクル80の試作車である。

車両実験課のスタッフのほかに、設計の 松山 も顔を見せていた。実際に走らせて、さまざまなデータを取るのだが、今回は特に振動・騒音の評価に重点がおかれていた。車両実験課のスタッフが声をかける。

「こんなところまで、しかもこんな時間にご苦労さんだね」

松山が答える。

「とんでもない。むしろ喜んで来たんだ。自分の工夫した設計で、果たして風切り音が小さくなっているかどうか、初めてわかるんだから。」

しかし、なぜ夜なのか。闇の中なのか。

「試作車ですから秘密保持のため、いつもシートをかぶせている。それで評価できるものもあるがシートを外さないとデータを取れないものもある。その一つが風切り音。」

風切り音をなくすために、ドアの剛性アップなど、松山が苦労した点は多い。それを自分の目で評価するために、嬉々として(?)夜の東富士へやって来たという訳だ。もちろん車両実験課が行う実験・評価はこれだけではなく、あらゆる点に渡る。

実験方法も、車を人工的に振動させるシェーカーテストやシャーシドラム、加振動、雨漏りを調べるシャワーテスト、さらにロープの上を走らせて車内異音をチェックするテストなど、多種多様だ。

条件も極めて過酷に設定されている。シェーカーテストは24時間くまなく車を動かしつづけるし、シャーシドラムに至っては2週間回し放しである。さらにここで重要なのは、実験・評価の方法それ自体の開発が求められることもあるという点だ。
こうした厳しい実験は言うまでもなく、ランクルがワールドカーとしての使命を負っていくためのものである。世界中のどんな条件の下でも走り続けるために、実験室の中であらゆる環境を疑似体験させなければいけないのである。中近東のベドウィン族が、「アクセルは床まで踏み続けるものだと思っている。」が故に、車両実験課のスタッフはアクセルを1日中踏みっ放しにするのだ。

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技術ノウハウの「引き出し」

ランクルの開発の一環したテーマとして追求された静粛性。それに実験課が先行開発段階から積極的に関わっていたことはすでに紹介した通りである。設計でさまざまな振動・騒音対策がなされたのもそのおかげであったのだが、これで目標値が完全にクリアできるほど開発は甘くない。ありとあらゆる実験を通して評価していく中で、不備な点が幾つも発見される。それを設計にフィードバックしていくのだ。

「実験の結果では、音がまだ思うほど小さくなっていない。サスペンションのリンクをもう少し短くしたらどうか」

そう語っているのは、実験課の立場を通して製品企画の段階から一貫して振動・騒音対策手掛けてきた 清 嗣恵雄 である。ここで注意してほしいのは、単なる結果の報告ではない、という点である。振動・騒音の原因を探り、さらに改善策を含めて設計に提案するのである。

「音を下げる方法はある意味では何通りもあるんです。サスペンションのリンクを短くしたりフレームの剛性を上げたり、といろんなノウハウが自分の引き出しに入っている。それをコストや重量あるいは騒音の特性などを考えて選び出し、提案していく。」

そこで要求されるのは、説得力である。

「なぜこの方法がいいのか、を設計部に理解してもらうために、いろんなデータを揃えたりすることもしばしば。」

振動・騒音対策の試行錯誤を繰り返す中で、アイドリング時の『こもり音』が問題になったことがあったが、この時緻密な解析結果を基に設計者を説得したのが清だった。

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EC関係者御一行様、来訪

試作を重ねる度に、ランクル80はその姿をより明確にし始めていった。この頃になると、車両生産技術部の動きも慌ただしくなり、ラインオフも現実味を帯びてきていた。

そんな頃、アラコに外国人の集団が現れた。言葉からすると、ヨーロッパからの訪問者らしい。案内されて、試験室へ入っていく。

認証試験のために来日したEC関係者である。認証試験とは、各国の法的規制をクリアしているかどうかのチェックであって、アメリカやオーストラリアは所定の書類審査だけで済むのだが、日本とECの場合は係官の立会いが必要なのである。運輸省やECから係官が派遣され、その前でさまざまな試験を行うわけだ。ことにECからは、数名の係官がやって来て、きっちりとチェックをしていく。ワールドカーゆえの仕事である。

この後、いよいよ『*号口試作移行会議』が生産技術部との間で行われ、1000項目以上にわたるチェックを経て、正式に生産準備部門へと進んでいくことになる。
何回となく繰り返された実験と評価。ランクルはその度に強く美しくなっていった。

*号口とは量産を意味するトヨタ独特の用語である。号口車とは量産車、号口試作は量産試作、号口メーカーとは量産用の部品を製造するメーカーのことである。その由来は、織機の発明者であった豊田佐吉翁にさかのぼる。当時、織機の受注はほとんどカスタム・メイドに近く、その受注番号を翁は「第○○○号口」と称していたのである。

 

 

Chapter6[生産技術の章]へつづく]


 

〜 THE LAND CRUISER STORY 〜
PROLOGUE :プロローグ
Chapter1[製品企画の章] :プレステージカーを目指せ
Chapter2[デザインの章] :タキシードで乗れるか 
Chapter3[設計の章] :クラウンを超えろ
Chapter4[試作の章] :嵐の日々
Chapter5[実験の章] :闇の中の疾走
Chapter6[生産技術の章] :人にどこまでやさしいか

 

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