ハチマルの生い立ち THE LAND CRUISER STORY 〜 Chapter6[生産技術の章] 〜

 

ハチマルを世に送り出した開発者たちの熱い想い

この物語はアラコ株式会社の実際のホームページに掲載されたものです。
7、8年前にアラコ殿に掲載許可を取りましたが実名が記載されていること、部署名が現在と変わっていることを理由に残念ながら却下されました。
しかし、ハチマルをこよなく愛する者として、ハチマル誕生秘話はぜひ80オーナーに知って頂きたい、という思いで掲載する事に致しました。


 

| 0.プロローグ | 1.製品企画の章 | 2.デザインの章] | 3.設計の章 | 4.試作の章 | 5.実験の章 | 6.生産技術の章 |

 

〜 Chapter6[生産技術の章] 〜


ひとにどこまでやさしいか
セイギのミカタ

開発の最終段階とも言える車両生産技術部。しかし、設計が終了するまで、ノホホンとしていられるわけではない。この部門も他と同じ様に、製品企画やデザイン、設計に積極的に関わっているのだ。
平たく言ってしまえば、

「生産を考えたデザインになっているか。」
「生産しやすい設計になっているか。」

ということである。車両生産技術部のスタッフは、

「成型は可能か。」
「成型のコストは高くならないか。」
「求められる品質を確保できるか。」

といった点からデザインの徹底チェックを行うのである。

「これだけ絞りが深いとプレスができない。」
「この設計では作業性が悪い。」

設計に対しても同じである。なるべく生産しやすく、工程が少なくて済み、コストを低く抑えられる設計になっているかどうか。要する に、コスト目標および品質目標のクリアのために、デザインと設計に関わっていく部門なのだ。

生産という立場から開発を見る・・・生産技術、略して『生技の見方』とはそれを言うのである。

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人にやさしいラインづくり

「今回のモデルチェンジではできるだけ省力化を図りたい」

車両生産技術部の 大石和史 はそれを強調した。

「よく知っているように、生産技術分野での省力化・無人化の流れは極めて大きなものになっている。自動車生産だって例外じゃない。もし、省力化・無人化できるところがあったら積極的にやっていきたい。」

さらに、大石 が続ける。

「但し、闇雲にやっても意味はない。設備投資にも限度があるからだ。人が作業をする上で苦しいところがあればそこから自動化しなくては。我々が目指すのは、単純な自動化ラインではなく、あくまで人にやさしい生産ラインだからだ」

この言葉が、アラコの生産技術のベクトルを示していると言っていいだろう。人に優しいライン、そのためにこそ、自動化や無人化を図るのだということ。だからいくら人が少なくても、1人への作業負担が大きくなるようではラインとしては失格だ。
無人化ラインの開発を担当した 宮田 徹 にしても 滝 隆道 にしても、そのことはよくわかっていた。従って彼らの車両設計に対する態度も一貫していた。

「無人化にふさわしい設計・構造になっているかどうか」

これである。実際、宮田 が車両設計部にクレームをつけたことがある。

「このままの設計だと、ルーフ用の鉄板を斜めから、こう、スライドさせていかないと組み付けられないよ。」
「それじゃ駄目なのか?」
「真上から降ろして組み付けるようにしてくれないと、自動化できないんだ。」
というようなことである。
 
スポット溶接で溶接ロボットが作業できるスペースがあるかどうかも、チェックの対象になる。ここにもまた、開発先行段階への関わり合いが必要な理由がある。さて図面が確定した後はいよいよライン構築である。どういった工程で、どういった設備を使って生産していくのか・・・といった点について構想を立てるわけである。もちろん一案だけではない。少なくとも三案は用意される。

「まずA案は、いちばん生産台数の少ない場合のライン構想です。B案は2番目、そしてC案はいちばん多い場合のライン構想。」

久永 が聞き返す。

「生産技術部の予想はどうなんだ?」

滝 が答える。

「多分、C案だろうと。」
「よし。じゃ、C案だ。」

つまり、どこまで生産の能力を持たせるか、生産技術部でも独自に売り上げの予想をして、それをライン構築に生かしていくということなのだ。これは生産技術部に限った事ではないかもしれないが、技術者にとって最高の報酬は、自分が開発に携わった製品が『売れる』という事である。その報酬を受け取るために、忙しい日々を過ごしていると言ってもいい。それだけに、最も高い予想をベースにしたラインが採用されたことに、宮田も滝も満足だった。

ところがである。結果を先に言うことになるのだが、ランクル80の場合、この予想よりもはるかに高い売れ行きを見せ、設備の大幅な増強を強いられたのだった。

「自分が携わった製品なのに、過小評価しすぎたようだ」

後に滝はそう振り返ることになる。

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現場が先生

ラインの構築が終わり、設備の調達もメドがつけば、あとに控えるのは量産試作(号口試作)である。実際にラインを造り量産してみるのだ。もちろんゆっくりではあるが。
両生産技術部の各セクションごとの交流も重要だ。プレス、ボディ(溶接)、塗装、組立てと流れていく中で、各作業をどこが担当するのか、といった事を量産試作の段階で明確にしておかないといけないからだ。

「この位置に穴が開いていては、取付け作業が難しすぎる。」
「これでは、ずっと腰をかがめて作業するしかない。」

こうした、現場でしかわからない問題点も洗い出さなくてはならない。これらの問題点はすぐ各部門へ連絡され、必要とあれば設計の変更もありうる。

「本来なら、こういった問題点は全て解決されていないといけないんでしょうが、実際に量産試作をしてみると、次から次へと細かな問題点が発生してくる。」

そういう 宮田の言葉に、デスクワークと現実との大きな隔たりをみることもできるだろう。それを教えてくれるのが『現場』なのだ。量産試作は問題点が消滅する迄何度か繰り返される。それが終わった時点で、開発作業は完全に山を越えたことになる。  
年月にして5年以上、延べ人数にして千数百人以上。かくしてランクル80は量産を待つばかりとなった。

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待望の日

深夜だというのに、広い工場内には人のざわめきと物を動かす音が満ちていた。時計の針は午前0時に近い。滝と宮田のところには、ひっきりなしに人が訪れ、何事かを打ち合わせては慌ただしく去っていく。ラインオフを明日に 控えて、最後の一番大事な仕事が残っていた。設備導入のためのライン工事である。
設備を全て備え、試運転を終え、生産準備を完全にして、製造部に引き渡すそれが真の意味での開発終了を意味するからである。但しここにも大きな仕事が待ち構えている。

「スケジュール管理やら立入工事者の管理やら一番最後の一番大変な仕事が残っている。」

しかし、これをやらなければ、開発に関係したスタッフ全員のこだわりが込められた『作品』は日の目を見ないのだ。
最後は、夜を徹しての突貫作業になることも珍しくない。

滝の近くにいた車両設計部のスタッフが言う。

「設計の方も大変だけど、生産技術も大変だよな。ランクル80の開発が終わっても、ランクル60の生産をすぐやめるわけにはいかないからね。 60を生産しつつ、80の生産ラインをつくるんだから・・・・・・。」

滝が答える。

「結局君も同じだと思うけど、やり遂げた後の感動ってあるじゃない。それだけを頼りに仕事をしてるようなものさ。」

夜の工場内で作業を見守りながらつぶやいた滝のこの言葉は、あるいは技術者全員の気持ちを代弁したものだったろう。  

ラインオフは明日だ。

(おしまい)


 

〜 THE LAND CRUISER STORY 〜
PROLOGUE :プロローグ
Chapter1[製品企画の章] :プレステージカーを目指せ
Chapter2[デザインの章] :タキシードで乗れるか 
Chapter3[設計の章] :クラウンを超えろ
Chapter4[試作の章] :嵐の日々
Chapter5[実験の章] :闇の中の疾走
Chapter6[生産技術の章] :人にどこまでやさしいか

 

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